JR総武線の両国駅西口から徒歩五分、都営大江戸線の駅からも七分ほどという。国技館と江戸東京博物館のあいだを抜ける観光の動線から、ほんの少し川のほうへ逸れた場所に旧安田庭園はある。塀の内と外で音の量が変わる。まずは急がず、池を左回りでも右回りでもいい、一周することから始めたい。
◆大名屋敷から、町の庭へ
墨田区の公式ページによると、この庭園は元禄のころ、本庄因幡守宗資が下屋敷として築いたのが始まりという。明治期に池田章政邸を経て安田善次郎の所有となり、大正十一年に東京市へ寄付された。翌年の関東大震災でほとんど旧態を失ったが、復元工事を経て昭和二年に一般公開。昭和四十二年には墨田区へ移管され、平成八年に東京都の名勝に指定されている。持ち主が大名から財閥へ、そして市民へと移ってきた来歴そのものが、両国という町の歩みと重なる。
◆潮の満ち引きを、いまはポンプで
池は「心」の字をかたどった潮入り池泉回遊式。かつては隅田川の水を引き入れ、潮の干満で景色が変わる仕掛けだったという。いまは地下の貯水槽と循環装置で人工的に干満を再現していると区の公式ページにある。つまり、時間を置いて二度眺めると池の表情が違う。園内には駒止石や松尾芭蕉の句を刻んだ供養碑などの史跡も残るという。日没後は閉園まで夜間ライトアップが行われているそうだから、夕方に合わせて訪れる手もある。開園時間は季節で変わり、休園日もあるため、出かける前に墨田区の公式サイトで確認しておきたい。
◆帰り道の楽しみ
庭園に隣接する旧両国公会堂の跡地には、二〇一八年に刀剣博物館が開館している。庭と刃物、取り合わせは意外だが、どちらも手入れの美学という点では地続きだ。足を延ばせば横網町公園もすぐ近く。帰りは両国駅へ向かいながら、国技館の周りをゆっくり歩けば、江戸の町歩きがもうひと区切りつづく。

