JR日暮里駅の南改札を出る。京成線と日暮里・舎人ライナーの駅からも同じく三分ほどだという。荒川区の案内によれば、改札からの道筋には案内板と路面表示があり、「日暮里繊維街」のモニュメントとフラッグが目印になる。駅の東側、バスの通る日暮里中央通りに出れば、そこからが繊維街だ。通りの両側に生地織物の店が並び、その列はおよそ一キロ、店の数は九十を超えるという。
◆浅草から移ってきた繊維商の街
日暮里繊維街の公式サイトによると、始まりは大正の初め、浅草から繊維業者が移ってきたことだという。関東大震災と日暮里大火を経て区画整理が進み、戦後に今の基盤ができた。昭和二十三年に協同組合が結成され、昭和四十四年に二つの団体が合併して東京日暮里繊維卸協同組合となり、現在は約八十店舗が加盟しているという。扱うものは和装、洋装、紳士・婦人服地、子供服、それに服飾の小物や付属品。通りには革、ボタン、型紙、縫製、アクセサリーといった専門店もあり、ミシンのレンタルや加工のサービスもあるという。問屋街といっても一般向けの小売が行われており、荒川区の観光サイトは、手芸やファッション、インテリア好きが世界中から訪れる街として紹介している。木版プリントの生地店、五代続く着物生地の卸、ヨーロッパのヴィンテージボタンの専門店が見どころに挙がっている。
◆一キロを往復する歩き方
歩き方としては、往復を勧めたい。行きは買わずに通りの端まで歩き、目についた店の場所を覚えておく。折り返してから、気になった生地を実際に手に取る。通りの中ほどには荒川区立の「ふらっとにっぽり」があり、繊維街の地図やパンフレットがもらえるほか、テーブルと椅子のあるロビーで一息つけるという。素材選びは思いのほか時間を使うから、休憩の場所がひとつあるのは心強い。区の案内によれば、この街は「ニポカジ」という言葉が生まれるほどの値ごろさで知られ、学生から年配層まで幅広い客層で賑わうという。営業時間や定休日は店ごとに異なり、公式サイトに一覧表が掲載されているが、臨時休業や祝日は表と異なる場合があると注記されている。秋にはファッションデザインコンテスト、夏には夏祭りがふらっとにっぽりで開かれ、ワークショップなどの催しも年に何度かあるというので、日程は訪ねる前に公式サイトで確認したい。日暮里はかつて「新堀」と書き、「一日中過ごしても飽きない里」の意を重ねて今の字が当てられたと伝わる。生地を探す一日には、ふさわしい地名だ。
◆帰り道の楽しみ
繊維街から駅に戻り、西口へ抜けると町の趣ががらりと変わる。御殿坂を上ると、谷中銀座商店街へ下りる階段「夕やけだんだん」がある。駅から歩いて五分ほど、階段の名は一般公募で決まったという。その先の谷中銀座は全長約百七十メートルにおよそ六十の店が並ぶ商店街で、寺町の谷根千へ続いていく。東の問屋街と西の寺町。この対照が日暮里駅周辺の町の構図だ。買った生地の包みを抱えて階段の上に立ち、名前のとおり夕焼けを眺めてから帰る。夕方までかかる買い物なら、そんな流れが組める。食事の場所に迷ったら、通りの途中のふらっとにっぽりでコンシェルジュに周辺の飲食店を相談できるという。