工場の油の匂いが嫌いだった、とその人は言う。制服に染みつく匂い。友達の家とは違う、家の中まで続く仕事場。
親父が倒れたとき、機械を止める手順を知ってるのが自分しかいなかったんです。それだけの理由でした、最初は。
◆戻ってから見えたもの
戻って三年。いまは0.01ミリの世界の面白さを語る。「うちにしか削れないものがある、って取引先に言われたとき、初めて親父の背中の意味がわかった」。
写真 旋盤の刃先、切子が舞う
四代目はまだいない。「無理に継がせない。でも、この仕事が面白いってことだけは、見せておきたい」。それは、彼の父親が結局やっていたことと同じだった。