「番台からはね、町が全部見えるの」。母が言う。常連の顔色、子どもの背丈、路地の噂。七十年分の定点観測が、この小さな台の上にある。
継いでくれとは一度も言わなかった。でも、辞めないでいてくれて、よかった。
写真 浴場、湯気とタイル絵
娘は薪で湯を沸かす。ガスより手間はかかるが、「湯がやわらかい」と常連は言う。今日も十五時、暖簾が出る。
川の東、まだ知らない東京。葛飾・足立・江戸川・墨田をたずねる地元紙。
曳舟の路地の奥、創業七十年の銭湯。番台に座り続けた母と、会社を辞めて戻ってきた娘。ふたりの湯守の話。
「番台からはね、町が全部見えるの」。母が言う。常連の顔色、子どもの背丈、路地の噂。七十年分の定点観測が、この小さな台の上にある。
継いでくれとは一度も言わなかった。でも、辞めないでいてくれて、よかった。
娘は薪で湯を沸かす。ガスより手間はかかるが、「湯がやわらかい」と常連は言う。今日も十五時、暖簾が出る。